revenge ~from bad end~    第3話

 
以前の生活を少しずつ思い出してくる。過去が思考に浸食してくる。

 ・・・過去いつだって、自分と所属する組織以外すべてがライバルで、手の内をさらした途端に馴れ馴れしくてうんざりしていた。

 ローターの振動が止まって、ほっと息をついた。涙が邪魔で何度か瞬きした後に「主人」を見やった。

 「主人」は、いつのまにか少年を抱え込んで身体を好きにいじっていた。

「ドヴォルザークを初めて聞いたときどう思った?」

「・・・きれい・・・だと」

「そのときどこにいた?」

「おん・・・がく・・・しつ」

「レコードで?」

「そうっ・・・」

「天気はどうだった?」

 どうしてか涙がこみ上げてきた。

「・・・あっ・・・」

 ローターの振動が再開された。

 だんだんと強くなってくる。ペニスの苦痛もだんだんと激しくなってきた。

 「主人」は何もいわず俺が話すのを待っている。時折少年の嬌声が間に挟まった。

 ・・・あの日、レコードが奏でるヴァイオリンの優雅な旋律が空気をふるわせ、俺の耳をふるわせたあの日。
 空は青かったのか、雨でよどんでいたのか、季節は緑だったのか、白だったのか・・・

 「主人」の視線が本当に俺の頭の中をかき回しているんじゃないかと思うほど、混乱し思考がまとまらない。

「んんっ・・・ああ・・・あ、お、おぼえて・・・な・・・い!」

 どうにもならなくて叫ぶように声を張り上げたとき、アクトーレスが近づいてきた。

 俺はさわられたくなくて腰を引いたが、あっさり引き戻された。
 また、質問が再開されたが、いい加減うんざりしてきて、途中何度も「いきたい」と口にした。

 そのたびそれは無視された。

「ガールフレンドはいただろう?どんなタイプが好みだ?」

「知らっ・・・ない・・・もぅっ、いかせてください・・・」

 腰をただ支えるだけのアクトーレスの手にさえ感じてしまうほど、肌が敏感になっている。

 俺の過去を暴くことで、俺を支配したいのだろうか。支配するきっかけがあるのだろうか。

 今日ばかりは、甘く強請る声も媚びうる視線も通用しない。

「ブロンド、赤毛、黒。髪の色はなにがいい?」

 身体は絶頂を迎えたくて仕方がない。

 俺は唇を噛み、「主人」の質問に答えなかった。すねているとでも、もう身体が限界なのかもしれないとでも、どちらでも受け取れるように表情を繕い、身体を弛緩させた。

 うつむくと、赤黒くぬめる自身が目に入る。なぜ生殖のための儀式がなぜ快楽をともなっているのか、考えたことはなかったのに、頭をよぎった。

 さっさと機嫌を損ねて鞭でたたいて気絶させてくれればいい。

「・・・」

 落胆のため息が聞こえたような気がした。

 俺の身体を支えていたアクトーレスが鞭をワゴンに乗せ、ペニスに触れた。

 そのとき叫び声があげたが、リングがはずされ、そのまま数度扱かれ達った。

 長時間焦らされたので、しばらく身体が痙攣していた。呼吸が落ち着いてきて腕の痛みを感じ、床の冷たさが現実に引き戻す。

「なめてあげなさい。きれいにできたらご褒美をあげよう」

 身体に力が入らない。少年を抱きかかえたまま「主人」は俺のそばにきて、少年のギャグをはずして手を導き、指示する。少年は目隠しされたまま、俺の身体をたどってペニスを口に含む。

 達ったばかりの身体は少年が俺の身体をたどることにさえ震え、口に含まれたときには声を抑えるべく唇をかみしめた。

 「主人」は少年を邪魔しないよう静かに俺を背後から抱き込んだ。

 そのとき、尻のなかのものが内壁に突き刺さるように形をかえ、俺は苦痛の声を唇がきれるほどかみしめた。

「ハイスクール時代の思い出は?」

「・・・」

「サマースクールは?」

「・・・」

「寮生活だった?」

「・・・」

「担任は?」

 少年の舌技はかなりのものだった。さっきはき出したばかりなのにすでにまた高ぶってきている。それをこらえるためにも、唇を噛んでいた。

 しかし、俺の身体はさらなる刺激が望んで勝手に腰をゆらしている。はやく今日のプレイが終わることを願って「主人」の顔を見上げた。

 頭の中の統制がきかなくなってきている。過去がまた浸食を開始する。いつだって冷静に物事を観察し思考していた俺を感じられない。


(・・・ハイスクール時代、成績を争うことしかしてこなかった)

 少しでも前回の成績より落とせば、あからさまに両親は落胆し、担任はしかりとばした。

 スポーツは身体があまり強くなかったこともあり、消極的だった。本はそれなりに読んだが、暖かい家庭、魔法の使える世界が上手く想像できなくて、物語やファンタジーなどの小説は好きじゃなかった。だからか、論文など構築された理論を好んだ。

 両親は良い親だったと思う。

 世間にでても恥ずかしくない大人に育ててくれたのだから。

 だが、甘えた経験は少ない。暖かいと評される家庭を維持するために、必要と彼らが感じれば旅行でもなんでもしたが、それ以外は認められなかった。


 質問に答える形で、「主人」はいろいろなことを思い出させた。乱雑に閉まっていた色のついてない、データを引き出した。

「よし、いい仔だ」

 それは少年に向けられていた。頭をなでられた少年がはにかむ。

 なぜか、羞恥を感じた。俺はどんな顔をしているのだろうか。

「この子はね、地下の仔なんだ。髪の色と良い、顔立ちといい、お前にそっくりだろう?ヴィラには物心つく前からいるらしいんだが、何度か粗相してね。こうして走れないようにされているんだ。彼にとってここでの経験が人生の全てだ」

 だから何だ。俺自身に暴かせた過去を俺に似ていると言うこの少年になぞり、俺の目の前で犯すことで、俺の過去を犯したと揶揄するつもりか。馬鹿馬鹿しい。

「だが、お前のを咥えながらなんて良い顔をすると思わないか?」

 少年が褒美をねだって立ち上がり、俺の肩に手を乗せて顔をあげる。目隠しされている少年の顔が間近になる。たしかに髪の色、顔立ちは自分に似ている。目隠しされているのは、目の色が違うせいか、それとも、【走れないように】なんらかされているのか。
 「主人」は少年の望みを汲んで、少年の顎をとり導き俺の肩越しにキスを与える。しめった音が俺のすぐ耳の横から発せられる。最前まで「主人」が飲んでいただろうワインの香りが鼻をかすめる。

 口腔内はものたりなさを感じていた。いたたまれず、顔を背ける。

 彼らの唇が離れた後、また、鎖がつり上げられた。今度は膝立ちしないとならない。

 「主人」の体温を背中に感じた。上半身の服を脱いだ生身の身体を俺に押しつけ、両手は俺の腹や胸をいじっている。

 目の前ではアクトーレスが、少年の尻からバイブをぬきとって、ローションを追加している。

 色のついていない「思い出」と色鮮やかな快楽とが俺の中でひしめき合っている。いつもなら、快楽すらモノトーンになってしまうのに。

 ペニスを扱かれ、尻からディルドとローターを抜かれた衝撃が身体を走る。
 ようやく、もうじき終わるんだと思った。

「・・・え、・・・あっ・・・や、やめてくれっ」

 俺の正面にはうつぶせになり、膝をたて腰を上げた少年の尻があった。そして、「主人」が後ろから俺のペニスを握り、少年に突き立てようとしている。

「もし、この子の立場に君がいたら、君は人生をどう受け止めるんだろうね?」

 喉がひくつき答えられなかった。それどころか、目の前の状況をどうやって回避できるか考えるだけで精一杯だ。

 女にしか入れたことはなかった。挿入されるの強制されたのだし、あるいは自分で腰を振らなければならない状況だった。そして、快楽は人間の構造上どうしようもないのだと肯定できた。

 だが、たぶん一度入れてしまえば解き放つまで自分の意志で腰を何度も突き入れてしまう。それは、認められない。

 鎖をがちゃがちゃ鳴らして、腰をよじろうとして抵抗を示すが「主人」はものともしない。

 それどころか、少年はすぼまりに俺の先端がついたのを感じると尻を俺に押しつけてきた。

「ん、はぁ・・・」

 少年の尻がすこし先がはいったペニスをさらに求め揺れているが、俺は震える足に力を入れ身体をよじり、なんとか腰を引こうとする。

 しかし、背後には主人がいて、さらに腕は宙に止められ逃げ道がない。

「ご、主人様、早く・・・お願い、ほしい」

 少年がねだる言葉を紡ぐ。
 ご主人様と呼ばれ驚く。そして、瞬時に理解する。

 少年を説明したときの【地下】の意味はまだはっきりとつかめないが、特定の主人がいないのだろう。そして、求められるやり方でセックスし今日の命を繋ぐ。
 少年にとってはこれが仕事なのだ。

 頭の中が冷めていくのに俺のペニスは力を失うことなく、また先端を尻のすぼまりにこすられ塗れた音を時折出している。

「ほら、フィル、早くしてあげなさい。おまえも気持ち良くなりたいだろう?」

 耳元でささやかれる声と腰を支える手に刺激され、身体がひくついた。

「あっ」

 そのとき、わずかだがさらに少年の尻に入ったらしい。
 期待がこもった声があがる。

(俺もこんな声や仕草をしていたのか?)

 俺がさせられるセックスの最中は、大半の時間、もちろん身体に触れられて起きる快楽はあるが、早く相手を満足させるかを考え実行している。
 そもそもセックスに自分から溺れた覚えがない。薬などで強制的に溺れても、自ら溺れるほどの価値を感じてなかった。
 最中の表情や仕草は、主人の反応を見た経験に基づいている。自分の顔や声をわざわざ確認したことなどない。

 次第に冷めてきていたはずの頭が、過去と身体が感じる快楽とが入り交じって再度熱をもち思考が続かない。「主人」はそんな俺の腰を支えている手を少し前に突き出す。

 そうしたことで、さらに少年の尻にペニスがめり込み亀頭がようやく入ったところで、理性が切れ、たまらず突き入れた。

 2人の嬌声が響く。歓喜の声と苦渋の声。

 「主人」はようやく俺が自ら腰を入れたことに満足したのか、自分の前を初めてくつろげ、尻のはざまに押しつける。

 だが、挿入せずに尻の狭間をすべらせ蕾の周辺や会陰部を刺激する。

 その振動は当然俺にも伝わり、快楽となって少年の尻をかき混ぜる結果となる。

 牡の本能を何とか押さえ込もうとするが、予想通り困難だ。

(いやだ!)

 言葉が胸に浮かんだ。久しぶりに感じるペニスへの圧迫感は溜まらなかった。こんなにも良かっただろうかと思う。だが、このままぶちまけてしまえば、自分はここのやつらの仲間になってしまう。

「・・・ぃ、やだ・・・」

 思いに反して身体は今日2度目の極みを目指して、駆けだしている。

 そして、前に感じる快感と後ろを焦らされる快楽に翻弄される。

 ふと、耳元でいつにない真剣な声が自分の名前を呼ぶ。

「フィル」

 唐突に役員室でレイプされた日がイメージに浮かび上がってきた。

 どんなに抵抗しても、懇願してもおもしろがられてしまう。自分はこうも無力だったのかと思い知らされたあの夜。

 ただ、時間が過ぎ去るのを待つしかなかった。

 どんなに頭の中で抵抗を考えても実行したくても、その力がなかった。だからなにかの力も欲しかった。快楽を押さえつけて自分の身体を思い通りにできる力、自分を押さえつけてくる奴らをねじ伏せられる力、傷つかずにすむ力が・・・今も欲しい。

「・・・フィル、外にでたら誰がお前を待ってくれている?」

 いつにない真剣な声。腰を動かしながら荒い息とともに耳元で囁かれ、脳裏では何も言葉が紡がれずむなしく点滅を繰り返している。

 何かが涙とともにこぼれ落ちる。

「先ほどの会話、友人の名前は一つもでてこなかった。ガールフレンドさえ」

 正解をつかみとることができない。頭の中は快楽の霧がかかり、思考が連続しない。ローターとディルドを抜かれた奥が熱くなるのを感じていた。

「会社にとって人間とは歯車だ。お前が引き抜かれた後のように、今でも誰かがお前の後でそれなりにやっている」

 いやだ。聞きたくない。しかし、顔をそむけても耳は閉じてくれない。

「世間は常に動いている。会社や組織に意志はない。求めているのはいつだって人間のほうだ。だからこそ、人を求めるのも人でしかない」

 瞳が抵抗をしめすように涙を流し続けている。

「言い換えれば、会社は成長も衰退もどちらも望む機能はない。それを望んでいるのはつねに人だ」

 耳元から毒が流れ込んできているようだった。
 考えないようにしていたことが、ふさぐことができないところからしみこんでくる。

 すでに、「主人」から与えられる振動で腰が揺れているだけだった。頭は白く痺れ、身体が感じる快感とその渇望に染まり、自ら思考を紡ぐことができない。「主人」の言葉に思考が勝手に反応する。

 待っている人。俺を求めてくれる人。

(・・・誰がいてくれるだろうか?)

 仕事が軌道にのったころから、両親には孫の顔が見たいと言われていたが、恋人など煩わしかった。恋愛にさく時間があるなら、仕事のために使いたかった。

 なぜなら、愛なんて形のない、数値化できないものは表現できず、評価できないからだ。
俺は評価できないものに価値を見いだせない。そして、価値を見いだせないものに時間は使いたくないし、それ自体必要ない。

「一年以上離れているお前を会社が、社会が待っていてくれるというのか?情報が劣化したお前は社会に受け入れられるのか?」

「ああ・・・ああああああ」

 胸の中に足下にいつのまにか暗い大きな穴空いている。そしてそこに衝き落とされる。広がる絶望に声を張り上げた。

 この空洞は埋まらない。自分では埋められない。


 スクール時代が終わるとき、自分の能力の評価の数値が良かったから社会は望んで求めてきた。

 ヘッドハンティングも、前の会社での成績がよかったからこそだ。


「なにを望んでいるんだ?お前は何を求めているんだ?」

 いつだって高い評価を望んでいた。高く評価され、さらに必要とされることを求めていた。誰かに求められるだけの力を持つことが目標だった。良い評価を得、自分の価値の高さを確認することだけが生きている実感だった。喜びだった。

 胸に空いた穴の中、いくら手を伸ばしても穴の淵に届かない。

 価値のない力のない自分など、認められない。認められず求められないことが、こんなにも辛い。

 瞳からは涙があふれ続けている。涙と一緒に、今までの自分を構成していた物が流れていく。

 つい先ほどまで埋められていた後蕾の奥が埋められるのを望んでいる。

 自分を埋めてくれるのを望んでいる。

 背後の男のペニスが、自分を埋めてくれず、その周囲を擦っているのに焦れている。空洞をふさいでほしい。

「何がほしい?」

 先ほどから動きが鈍くなった俺に少年が焦れている。勝手に腰を動かし、嬌声を部屋に響かせている。

 自分は誰かを埋めたいんじゃない、満たしたいんじゃない。埋められたい。満たして欲しい。

「・・・あなたのものを」

 とぎれとぎれに口が勝手に紡ぐ。

「・・・僕の奥に」

 消え入る声で望んだ。その望みはすぐ叶えられた。太ももをつかみ、一気に突き入れられた。

 尻の奥を埋められて、満足の声を上げ内部の筒がしまる。

 揺さぶられるまま、少年への振動も強くなり、2人の嬌声が響く。

 ひくつくそこは、いつものように腰を固定されず不安定なため、主人のペニスにまとわりつき逃すまいとするように吸い上げる。
 目の前の少年は急に強くなったリズムに柔軟に対応し、すぐ自分のリズムを合わせる。
 ぐちゃぐちゃ卑猥な音を立てているのが、どちらなのかもうわからない。 「主人」が腰を突き立てると、腰が前に突き出されて少年の尻の中をあらぬ方向に抉る。だが、太ももを支えられ腕も吊られているせいで身体が反り返ったところでとまり、今度は俺の内部を深く抉られる。

 前も後ろもこれまでにない快楽を感じている。なのに、さらに信じられないほど貪欲に望み、腰をなんとか固定させようと力を入れるが上手くいかず、されるがままになってしまい、声が漏れる。

「あ、ひ、ああ!」

 深く入れられたままで大きく何度かグラインドされたとき、声を上げて少年が達した。きつくペニスを締め付けていくのにあとわずかな刺激が足りない。

 だが、次の瞬間「主人」が俺を大きく突き上げ、目の前がスパークした。



         
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